英語ができるだけでは戦えない。グローバル人材に本当に必要な3つの力

はじめまして。
企業の海外展開を支援するコンサルタントをしながら、キャリアや学び直しについての記事を書いている柏木遼と申します。

私は大手メーカーの海外営業として9年間働き、30代前半には海外MBA留学を本気で目指して、GMATとTOEFLの勉強に2年間を費やしました。
最終的に家庭の事情で出願は断念しましたが、あの2年間で痛感したことがあります。

英語は、できて当たり前の世界がすでに存在するということです。

「英語を勉強しているのに、キャリアが開けている実感がない」
「TOEICのスコアは上がったのに、仕事での評価は変わらない」

もしあなたがそう感じているなら、原因は英語力の不足ではないかもしれません。
足りないのは、英語と一緒に発揮するはずの「別の力」である可能性が高いのです。

この記事では、私自身の失敗と回り道、そして政府資料や世界最高峰のビジネススクールの教育方針を手がかりに、英語の先にある「本当に必要な3つの力」を整理します。
読み終わる頃には、明日から何を鍛えればいいかが具体的に見えているはずです。

英語力は「武器」から「前提条件」に変わった

まず、英語が重要ではないという話では決してありません。
むしろ逆です。

国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)の「英語活用実態調査2019」によると、「英語は今後のビジネスパーソンにとって重要なスキルである」と回答した企業・団体は82.6%にのぼります。
8割超の企業が重要だと認めているスキルは、もはや差別化要因ではなく前提条件です。

持っていないと土俵に上がれないが、持っているだけでは勝てない。
運転免許のようなものだと考えると分かりやすいと思います。

では、前提条件の先に何が求められるのか。
実は、この問いには政府がすでに答えを出しています。

政府のグローバル人材育成推進会議がまとめた「中間まとめ」(2011年)では、グローバル人材の概念が次の3要素で整理されています。

要素内容
要素Ⅰ語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
要素Ⅲ異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー

注目してほしいのは、語学力が3要素のうちの1つにすぎない点です。
15年前の資料ですが、この構造は今もまったく古びていません。

私自身、TOEFLのスコアを追いかけていた時期は「英語さえ伸びれば道が開ける」と信じていました。
しかし外資系に転職して分かったのは、社内で頭角を現すのは英語が一番うまい人ではなく、要素ⅡとⅢに当たる部分が強い人だという現実です。

ここからは、この定義と私の実体験を重ねながら、英語の先にある3つの力を具体的に見ていきます。

力その1:正解のない問いに答えを出す「意思決定力」

海外営業時代、私の周りには英語が流暢なのに会議で存在感のない人が何人もいました。
共通していたのは、きれいな英語で話すものの、結論と根拠が見えないことです。

一方で、片言に近い英語でも「私はAを選ぶ。理由は2つ」と言い切れる人は、海外の取引先から確実に信頼されていました。
グローバルの現場で評価されるのは発音の美しさではなく、不完全な情報の中で自分の結論を出し、それを簡潔に説明できる力です。

この力を世界で最も徹底的に鍛えている場所の一つが、ハーバードビジネススクールです。
公式サイトの解説によると、学生はMBAの2年間で約500本もの「ケース」と呼ばれる実在企業の経営課題を読み込み、教授の講義ではなく学生同士の討論で授業が進みます。

模範解答は用意されていません。
「自分が経営者ならどうするか」を毎日問われ続けるわけです。

しかも評価の大部分はクラスでの発言で決まると言われます。
どれだけ知識があっても、議論の場で自分の立場を示せなければ「存在しない」のと同じ扱いになる。
世界最高峰の教育機関が、語学ではなく意思決定と発言の訓練に2年間を丸ごと使っているという事実は、私たちが何を鍛えるべきかを示す強烈なヒントだと思います。

では、日常の仕事でどう鍛えるか。
私が実際に効果を感じたのは、話す前に「型」を決めてしまうことでした。

伝わらない言い方伝わる言い方
「いろいろ検討したのですが、状況が複雑でして」「結論はAです。理由は2つあります」
「どうしましょうか」「私はBを推します。懸念点があれば教えてください」
「一般的にはこう言われています」「私はこう判断します。根拠はこのデータです」

左の話し方は日本語なら好意的に受け取ってもらえる場面もありますが、多国籍の会議では「意見がない人」と見なされて終わりです。
英語力そのものより先に、この型を身につけるほうがはるかに効果があります。

そのうえで、日々の習慣としては次の3つをおすすめします。

  • 会議では必ず「結論から」発言し、根拠を2つ添える
  • 上司に判断を仰ぐ前に、自分ならどうするかを先に決めてから相談する
  • ニュースを見たら「自分が当事者なら」と考える癖をつける

地味ですが、私はGMATの勉強よりこの習慣のほうがキャリアに効いたと感じています。

力その2:違いを力に変える「異文化理解」と自分の軸

政府定義の要素Ⅲは「異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー」でした。
前半だけでなく、後半がセットになっている点が重要です。

私は入社3年目の頃、東南アジアの代理店との商談で大失敗をしました。
日本流の「察してもらう」提案資料をそのまま持ち込み、まったく響かなかったのです。

相手の文化では、結論と数字を最初に示さない資料は「準備不足」と受け取られます。
英語の問題ではなく、相手の意思決定の流儀を知らなかったことが敗因でした。

悔しかったのは、同行した先輩が同じ資料を使いながら商談をまとめたことです。
先輩は冒頭で「今日決めてほしいことは1つです」と宣言し、資料の順番をその場で入れ替えて説明していました。
英語力は私と大差なかったはずなのに、相手の頭の中の地図を理解しているかどうかで、結果は正反対になったのです。

一方で、相手に合わせるだけの人も信頼されません。
「あなた自身はどう考えるのか」「日本のやり方にはどんな合理性があるのか」を語れない人は、単なる調整役として扱われてしまいます。

異文化理解とは、相手に染まることではありません。
違いを面白がりながら、自分の軸を説明できることです。

この力は国内にいても鍛えられます。

  • 社内の他部署や年代の違う人と仕事の進め方の違いを言語化してみる
  • 海外のニュースを日本メディア以外の視点でも読んでみる
  • 自社や日本のやり方の「理由」を外国人に説明するつもりで整理する

「なぜ日本ではこうするのか」を説明できるようになると、海外の相手との会話は驚くほど深くなります。

私の経験では、海外の取引先が食いついてくるのは流暢な英語の雑談ではなく、「日本の品質管理はなぜここまで細かいのか」といった問いに自分の言葉で答えたときでした。
語るべき中身を持っている人にとって、英語はただの運搬手段になります。
順番としては、中身が先、英語は後です。

力その3:誰にも頼まれていないのに動く「主体性」

3つ目は、要素Ⅱの筆頭に挙げられている主体性です。
私はこれが3つの中で一番の分かれ目だと考えています。

日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、2024年度に海外留学を開始した日本人学生は91,054人でした。
前年度から2.1%増えて回復傾向にはあるものの、過去最多だった2018年度の115,146人にはまだ届いていません。

この数字を「若者の内向き志向」と評する論調もありますが、私はむしろチャンスだと捉えています。
みんなが踏み出さない時期に踏み出す人は、それだけで希少になれるからです。

主体性がなぜそれほど重視されるのか。
理由は単純で、海外の現場には「指示を待つ」という選択肢が存在しないからです。

本社から遠く離れた場所では、想定外のトラブルが起きても、上司に聞く前に自分で一次対応を決めなければなりません。
私も現地の港でコンテナが止まったとき、深夜の日本に電話がつながるのを待たず、その場で代替輸送の手配を決めた経験があります。
正しかったかは今でも分かりませんが、あのとき動けたことが取引先との信頼につながりました。

そして主体性とは、留学のような大きな決断だけを指すのではありません。
日常の小さな一歩の積み重ねです。

  • 手を挙げる人がいない海外案件に「やります」と言う
  • 社外の勉強会やコミュニティに自分から参加する
  • 完璧な準備が整う前に、小さく始めてみる

私がMBAを目指したのも、誰かに勧められたからではなく、海外営業の現場で「このままでは戦えない」と感じて自分で決めたことでした。
結果的に出願は断念しましたが、あの2年間の学習と情報収集は、その後の外資転職と独立の土台になっています。

動いた分だけ、選択肢は増えます。
これは断言できます。

3つの力を同時に鍛える環境はあるのか

ここまで、日常でできる鍛え方を紹介してきました。
ただ、正直に言えば、3つの力を一気に、強制的に鍛えられる環境も世の中には存在します。

その代表格が世界トップクラスのビジネススクールです。
発言しなければ評価されない討論授業、世界中から集まる多様な同級生、そして出願準備の段階から求められる主体性。
先ほどの3要素を、これほど同時に要求される場所は他にないと思います。

中でも頂点に立つハーバードビジネススクールについては、HBSのハイエンドな環境と難易度・学費を体系的にまとめた完全ガイドが分かりやすく、私が現役の受験検討者だった頃に欲しかった情報が一通り揃っていました。
合格率や必要スコアだけでなく、奨学金制度まで整理されているので、「自分には縁がない」と思っている人ほど発見があるはずです。

もちろん、全員が留学すべきだという話ではありません。
費用も時間も相当な覚悟が要りますし、国内でキャリアを積みながら3つの力を磨く道も十分に現実的です。

ただ、世界最高峰が入学者に何を求め、在学中に何を鍛えさせているのかを知ると、明日から自分が磨くべき力の解像度が一気に上がります。
私も出願準備を通じて、自分に足りないのは英語ではなくリーダーシップ経験の言語化だと気づかされました。
この気づきは、留学しなかった今でも財産になっています。

情報を知ること自体は無料です。
知らないまま選択肢を閉じてしまうのが、一番もったいないと私は思います。

まとめ

英語ができるだけでは戦えない時代の、本当に必要な3つの力を整理しました。

  • 正解のない問いに自分の答えを出す「意思決定力」
  • 違いを面白がり、自分の軸を語れる「異文化理解」
  • 誰にも頼まれていないのに動く「主体性」

政府の定義でも、語学力は3要素のうちの1つにすぎません。
英語学習を続けながら、残りの2要素を日常の仕事の中で鍛えていく。
この組み合わせこそが、グローバルで通用する人材への最短ルートだと私は考えています。

かつての私のように「自分にはハードルが高い」と感じている人こそ、まず知ることから始めてみてください。
情報を集め、小さく動き、自分の答えを出す。
その繰り返しの先で、見える景色は必ず変わります。