「この薬、本当に大丈夫?」——薬を手にするとき、そんな不安を感じたことはないでしょうか。毎日服用する薬が安全で効果的なものであるかどうかは、患者さんにとって切実な問題です。しかし実際には、一錠の錠剤が皆さんの手元に届くまでには、一般の方にはほとんど見えない、徹底した品質管理のプロセスが存在しています。
はじめまして。医薬業界専門ライターの田中恵子と申します。大手製薬会社の品質保証部門で8年間勤務した経験を持ち、現在は医薬品の安全を守る「縁の下の力持ち」にスポットを当てた記事を発信しています。
今回取り上げるのは、「バリデーション」という技術です。製薬業界では当たり前のように使われる言葉ですが、業界外の方には馴染みが薄いはずです。本記事では、バリデーションとは何か、なぜ薬の安全に欠かせないのか、そしてこの分野で長年にわたり技術を磨いてきた日本バリデーションテクノロジーズ株式会社(現:フィジオマキナ株式会社)の役割について、分かりやすく解説していきます。
目次
バリデーションとは何か
医薬品の世界における「バリデーション」の定義
「バリデーション(validation)」という英単語を直訳すると「確認」「妥当性の検証」を意味します。医薬品の製造においては、これをより厳密に定義しています。
日本の法令「GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)」では、バリデーションを次のように定義しています。
製造所の構造設備並びに手順、工程その他の製造管理及び品質管理の方法が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とすること
ひとことで言えば、「決められた手順と設備で、毎回必ず同じ品質の薬が作れることを科学的に証明し、その証拠を記録しておくこと」です。
医薬品は工業製品とは異なり、全数検査が現実的に不可能です。膨大なロット数の錠剤を一錠一錠検査することはできないため、製造プロセス自体が正しく設計・管理されていることを事前に証明する必要があります。これがバリデーションの根本的な役割です。
なぜバリデーションが絶対に必要なのか
少し想像してみてください。ある製薬会社が高血圧の薬を1万錠製造したとします。そのうちの50錠だけを抜き取って検査し、「問題なし」と判断したとしても、残りの9,950錠が本当に同じ品質であるという保証はどこにもありません。
バリデーションとは、この「保証」を、製造プロセスレベルで確立するための仕組みです。「この材料を、この手順で、この設備を使って製造すれば、必ず規格通りの薬ができる」ということをデータで証明するからこそ、全数検査なしでも製品の品質が担保されるのです。
医薬品の品質が保たれない場合、患者さんの命に直結します。有効成分が少なすぎれば薬が効かず、多すぎれば副作用のリスクが生まれます。バリデーションは、こうした事態を防ぐための、製薬業界における「命の安全保障」とも言えます。
バリデーションを支える法的・国際的な枠組み
GMP省令とバリデーション基準
日本では、医薬品製造においてバリデーションの実施が法律で義務付けられています。根拠となるのが「GMP省令」(厚生労働省令第179号)で、その第13条にバリデーションに関する規定が設けられています。
日本の規制当局であるPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)のGMP適合性調査ページによると、製薬会社のGMP適合性は書面および実地調査によって確認されます。この調査に合格しなければ、薬の製造販売承認は得られません。
バリデーションを実施しなければならない主なケースは以下の3つです。
- 新たに医薬品の製造を開始する場合
- 製造手順や設備など、製品の品質に大きな影響を与える変更を行う場合
- その他、製造管理・品質管理を適切に行うために必要と判断される場合
国際的な整合性:PIC/SとFDA
バリデーションの基準は日本国内に留まらず、国際的にも整合が図られています。日本は2015年7月にPIC/S(医薬品査察協定・医薬品査察協同スキーム)に加盟し、グローバルなGMP基準に沿った製造管理を推進しています。
アメリカのFDA(食品医薬品局)もバリデーションに関する独自のガイドラインを持っており、日米欧で輸出入される医薬品はそれぞれの規制基準を満たす必要があります。国内の製薬会社がグローバル市場を目指す上で、国際水準のバリデーション対応は今や必須の要件となっています。
バリデーションの種類と実施プロセス
主なバリデーションの種類
バリデーションには、目的に応じていくつかの種類があります。製薬会社は製品や工程に応じて、適切なバリデーションを選択・実施します。
| バリデーションの種類 | 対象 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| プロセスバリデーション | 製造工程全体 | 規格通りの品質の製品が安定して製造できるか |
| 洗浄バリデーション | 製造設備の洗浄手順 | 前の製品の成分が残留していないか |
| 分析法バリデーション | 品質試験の測定方法 | 試験法が正確で信頼できるものか |
| コンピュータ化システムバリデーション | 製造・管理に使うソフトウェア | システムが意図した通りに動作するか |
なかでも洗浄バリデーションは、複数の製品を同じ設備で製造する場合に特に重要です。前に作った薬の成分が次の製品に混入する「コンタミネーション(交差汚染)」を防ぐため、洗浄手順が確実に機能していることを科学的に証明しなければなりません。
適格性評価(クオリフィケーション)のステップ
バリデーションの実施には、段階的な「適格性評価(Qualification)」のプロセスが伴います。設備や機器を対象としたバリデーションでは、以下の4つのフェーズを順番に実施します。
| ステップ | 略称 | 確認内容 |
|---|---|---|
| 設計時適格性評価 | DQ(Design Qualification) | 設備・機器の設計が要求事項に適合しているか |
| 据付時適格性評価 | IQ(Installation Qualification) | 設備・機器が設計通りに正しく設置されているか |
| 運転時適格性評価 | OQ(Operational Qualification) | 設備・機器が仕様の範囲内で正常に動作するか |
| 性能適格性評価 | PQ(Performance Qualification) | 実際の製造条件下で安定して性能を発揮できるか |
DQから始まりPQで完結するこの流れは、設計段階から運用段階まで一貫した品質の証明を可能にします。「新しい製造設備を導入したから、すぐに薬の製造に使う」ということは、製薬の世界では許されません。設備を導入する前から、この適格性評価のプロセスを丁寧に積み上げることが求められているのです。
「溶出試験」とバリデーション——薬の”効き目”を保証する
溶出試験とは何か
バリデーションの対象となる重要な試験のひとつが「溶出試験」です。
錠剤やカプセル剤は、体内に入った後、胃や腸の中で徐々に溶けて有効成分が吸収されることで効果を発揮します。溶出試験とは、この「薬が溶けるスピードと量」を人工的な試験液で再現し、測定する試験です。
溶出の速さが遅すぎれば薬が吸収される前に排出されてしまい、逆に速すぎれば急激な吸収で副作用が出るリスクも生まれます。つまり溶出試験は、薬の「効き目」そのものを確認する試験であり、製剤開発の現場において欠かせない工程です。
溶出試験器のバリデーションが重要な理由
ここで重要になるのが、「溶出試験器そのものが正確に機能しているか」という問題です。どれだけ精密な試験を設計しても、試験に使う機器が正しく動作していなければ、得られたデータは無意味になってしまいます。
溶出試験器のバリデーションでは、試験液の温度が37℃(体温に近い温度)に正確に保たれているか、攪拌のスピードが規定通りかどうか、複数のベッセル(試験容器)間でばらつきがないか——こうした細部に至るまで、科学的に検証し文書化します。この地道な作業があってはじめて、溶出試験の結果が「信頼できるデータ」として規制当局に認められます。
日本バリデーションテクノロジーズ株式会社が果たしてきた役割
2002年の創業から20年以上の歴史
溶出試験とバリデーションの分野で、日本に専門的な技術を根付かせることに貢献してきた企業が、日本バリデーションテクノロジーズ株式会社です。
同社は2002年に埼玉県越谷市で創業しました。設立当初から、医薬品の品質試験機器——とりわけ溶出試験器——のバリデーションおよびキャリブレーション(校正)サービスを専門とし、製薬会社や研究機関に対して高度な技術サポートを提供してきました。
「バリデーション」という専門的なサービスを社名に冠した同社は、「私たちの技術は、徹底的に検証された確かなもの」というメッセージを業界に向けて発信し続け、着実に信頼を積み重ねてきました。
社名変更と事業の進化——現:フィジオマキナ株式会社
2024年1月1日、日本バリデーションテクノロジーズ株式会社は「フィジオマキナ株式会社(英名:PHYSIO MCKINA Co., Ltd.)」へと社名を変更しました。
「フィジオマキナ」という社名は、「Physio(物理・生理)」と「Machina(機械)」を組み合わせた造語で、物理的・生理学的な現象を機械技術で解析するという事業コンセプトを表しています。この社名変更は単なるリブランディングではなく、創業以来の溶出試験器ビジネスを核としながら、創薬支援・バイオ医薬品・MPS(生体組織チップ)領域へと事業を大きく拡張するという、明確な意志の表れです。
しかしながら、「バリデーション」の精神——製品やプロセスを徹底的に検証し、その結果を科学的に保証するという姿勢——は、フィジオマキナとなった現在も企業活動の根幹に宿り続けています。
同社が提供する主なサービスと強み
フィジオマキナ株式会社(旧:日本バリデーションテクノロジーズ株式会社)が提供するサービスの特徴は、機器の販売にとどまらない「トータルサポート」にあります。
- 海外の先進的な溶出試験器を日本市場に導入し、製薬会社へ提供
- 溶出試験器・製造設備のバリデーション・キャリブレーションの実施
- SOP(標準操作手順書)の作成支援や技術資料の翻訳・通訳
- セミナーや講習会の開催による技術者育成
- 創薬・製剤開発向け機器の導入支援と技術的サポート
機器を届けて終わりではなく、導入後の運用・保守・教育まで一貫してサポートするスタイルが、多くの製薬会社から高い評価を得てきた理由です。業界特有の複雑な規制対応も含め、顧客に寄り添う姿勢は創業当初から変わっていません。
同社の取り組みをさらに詳しく知りたい方は、日本バリデーションテクノロジーズ株式会社(現:フィジオマキナ株式会社)の公式YouTubeチャンネルをご覧ください。製品紹介から技術的な知識まで、専門情報を分かりやすく発信するコンテンツが揃っています。
まとめ
バリデーションとは、「この製造プロセスで、毎回必ず同じ品質の薬が作れる」ことを科学的に証明し、記録するプロセスです。医薬品の全数検査が現実的に不可能である以上、製造プロセスそのものの信頼性を担保するバリデーションは、患者さんの安全を守るための要(かなめ)です。
本記事のポイントを改めて整理すると、以下の通りです。
- バリデーションは、日本のGMP省令で義務付けられた医薬品品質保証の根幹
- プロセス・洗浄・分析法など、目的に応じた複数の種類がある
- DQ→IQ→OQ→PQという段階的な適格性評価が設備・機器の品質を担保する
- 溶出試験器のバリデーションは、薬の「効き目」の信頼性を直接守る重要な工程
- 日本バリデーションテクノロジーズ株式会社(現:フィジオマキナ)は、この専門分野で20年以上の実績を積み上げてきた企業
薬局で何気なく受け取る一錠の薬の裏側には、こうした目に見えない精緻な検証作業が積み重ねられています。バリデーションという言葉を知ることは、私たちが日々信頼している「薬の安全」がいかにして作られているかを理解する、大切な一歩ではないでしょうか。