ディスペンサ混合吐出の基本から応用まで!比率制御のすべて

作業台の上で、あなたは2液性の接着剤を正確に混合しようとしています。

この工程は一見地味ですが、実はものづくりの品質を左右する「心臓部」です。

私もかつて、スマートフォン用カメラモジュールの接着工程で、接着剤がほんの0.02mL多いだけで歩留まりが大幅に落ちる現場を目の当たりにしました。

そのわずかなズレが、時には数千万円の損失につながりかねないのです。

ディスペンサの世界で「1滴の精度に、1ミクロンの情熱を。」を掲げ、20年近く技術に携わってきた白石拓真が、この混合吐出(ミキシングディスペンス)という見えない技術に、魂を吹き込みます。

この記事では、

  • なぜ混合吐出が必要なのか、その原理
  • 比率制御を完璧にするための技術的な仕組み
  • 現場で精度を劇的に向上させた具体的な改善事例

を、専門家だけでなく初心者の方にも「理屈でなく感覚で理解できる」よう、優しく翻訳していきます。

さあ、あなたの現場の精度と誇りを、ひとつ上の次元へ導きましょう。

混合吐出とは?ものづくりの「心臓」を理解する

混合吐出が必要な理由:2液性の化学反応と可使時間

ディスペンサによる混合吐出が求められるのは、主に「2液性」の材料を使う場合です。

2液性とは、主剤(ベースとなる樹脂)と硬化剤(反応を促す成分)を混ぜ合わせることで初めて化学反応が起こり、硬化・接着・封止などの機能を発揮する材料を指します。

代表的なものに、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂、EVバッテリーで使われる放熱ギャップフィラーなどがあります。

これらの材料の機能を最大限に引き出すためには、メーカーが指定する混合比率(例:100:10)を、まさに「呼吸をするように」安定して守り続ける必要があるのです。

厳守すべき「可使時間」(ポットライフ)

さらに重要なのが「可使時間」(ポットライフ)です。

これは、主剤と硬化剤を混ぜた瞬間から、材料が硬化し始めて使えなくなるまでの制限時間のこと。

手混ぜの場合、計量誤差が出やすいだけでなく、作業時間をロスして材料が使えなくなるリスクも高まります。

混合吐出ディスペンサは、必要な量を、必要な比率で、インライン(連続的)に供給することで、この時間との戦いを最適化する役割を担っています。

失敗を招く「比率のズレ」:0.02mLの重み

比率が少しでもズレると、材料の性能は致命的に低下します。

たとえば、硬化剤が少なすぎれば「未硬化」になり、接着力が弱まったり、耐久性がなくなったりします。

逆に多すぎれば、硬化が速くなりすぎて途中でノズルが詰まったり、材料の体積が変化してひび割れの原因になったりするのです。

私自身の経験でも、わずか0.02mLのズレが製品の歩留まりを大幅に落とすことを痛感しました。

この経験から、「吐出技術こそものづくりの心臓部だ」という信念を持つに至ったのです。

精度は数字じゃない、“姿勢”だ。

この言葉は、技術者の慢心こそ最大のリスクであるという、私の独立初期の失敗から学んだ教訓でもあります。

精度を司る比率制御の「原理」と仕組み

容積計量方式こそ高精度の鍵

ディスペンサの吐出方式にはいくつかありますが、高粘度で極めて厳密な比率管理が求められる混合吐出では、ほとんどの場合「容積計量方式(ボリューム方式)」が採用されます。

これは、液体を「時間」や「圧力」ではなく、「体積(容積)」で計量する仕組みです。

  • 時間・圧力方式(タイム方式):エアパルスで押し出す方式は、粘度の変化や温度に左右されやすく、高精度の比率制御には不向きです。
  • 容積計量方式:ポンプ内部の構造(容積)で吐出量を規定するため、液剤の粘度変化に強く、非常に安定した比率制御が可能です。

モーノ式とプランジャー式:構造と比喩による解説

容積計量方式の中でも、現場でよく使われる二つの代表的なポンプをご紹介しましょう。

モーノ式(ヘリカルポンプ)

モーノディスペンサは、ローター(回転する部品)とステーター(固定される部品)の噛み合いによって、液体を強制的に移送します。

これは、まるで「心臓のポンプ」のように、一定のリズムで決まった量の液体を送り出す仕組みです。

2液混合の場合、2台のモーノディスペンサのローター回転速度をデジタル制御することで、混合比率を簡単に、かつ高精度に調整できます。

高粘度で比重差がある材料でも、安定した吐出精度を維持できるのが最大の特長です。

プランジャー式(ピストン式)

プランジャー式は、まさに「注射器」のように、ピストンを指定のストローク(移動距離)だけ動かすことで、正確な体積の液剤を吐出します。

構造がシンプルで非常に精度が高く、マイクロレベルの微少量吐出にも向いています。

2液混合では、このプランジャーを2つ並列に配置し、それぞれのピストン移動量を精密に制御することで比率を管理します。

現場での「事例」から学ぶ!混合比率を最適化する改善策

課題解決事例:吐出誤差率60%削減の舞台裏

私が技術顧問として参画した某ロボットメーカーの自動塗布ライン立ち上げプロジェクトでのことです。

EVバッテリーユニットに充填する2液性ギャップフィラーの混合比率が安定せず、吐出誤差率が目標値の倍以上になるという課題がありました。

原因は、材料の「チクソ性」(時間経過で粘度が変化する性質)と、供給ポンプへの材料の供給ムラでした。

改善策の要点:

  1. 容積計量式ポンプへの統一:まず、圧力式で動いていたラインの一部を、高精度な容積計量式(モーノポンプ)に統一しました。
  2. デジタル連動制御の導入:主剤ポンプと硬化剤ポンプのモーター回転数を、リアルタイムでフィードバック制御するシステムを導入。これにより、片方の粘度が変化しても、もう一方の吐出を瞬時に補正できるようになりました。
  3. 周辺機器の選定:材料タンクからポンプへの供給圧力を一定に保つための精密なレギュレーターや脱泡器を導入し、吐出の「姿勢」を整えました。

結果として、吐出誤差率を従来比60%削減することに成功し、生産性が劇的に向上しました。

この経験から言えるのは、高精度のディスペンサを導入するだけでなく、周辺機器を含めたシステム全体の「緻密な設計」こそが、混合吐出成功の鍵だということです。

明日試せる!比率制御のための「小さなアクション」

高価な装置を導入する前に、あなたの現場で明日からでも試せる、比率制御のための小さな改善アクションをリストアップしました。

  • 液剤温度の記録と管理:液剤の粘度は温度に大きく影響されます。作業開始時と終了時の温度を記録し、一定の温度範囲内で作業できているか確認してください。
  • 材料の可使時間(ポットライフ)の再確認:混合後の使用制限時間を把握し、その時間を守るためのタクトタイム設計になっているか見直しましょう。
  • ポンプ回転数のデジタルログ分析:現在使用しているポンプの回転数や圧力のデータを取得し、異常な変動がないかをグラフ化して確認します。わずかなブレが比率ズレのサインです。
  • ミキサーエレメントの点検:スタティックミキサー(静的ミキサー)を使っている場合、内部のエレメントに液剤の固着がないか、定期的に確認・交換しましょう。ムラのない混合の基本です。

結論:ディスペンス技術は、ものづくりの魂

ディスペンサの混合吐出と比率制御は、地味な技術かもしれません。

しかし、この目に見えない1滴の精度こそが、最終製品の信頼性、耐久性、そして歩留まりというものづくりの魂を宿しているのです。

この記事で解説した、

  • 2液性材料の化学反応という原理
  • 容積計量方式という高精度の仕組み
  • システム全体で精度を追求する改善の姿勢

これらを現場で活かすことで、あなたのディスペンス技術は必ずや向上します。

技術は日々進化しますが、基本原則は変わりません。

ぜひ、今回得た知識と、私がお約束した「現場視点」を活かし、あなたのラインの精度をさらに高めてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

精度は数字じゃない、“姿勢”だ。

技術的な課題や次のステップについてご相談があれば、いつでもお声がけください。